突然ですが、今日の記事は先週書いていた弱虫ペダルの二次創作、小話です。
T2のお話で、最近の本誌の内容を題材にしましたが、本誌のネタバレはない、あまりオチもない話です(すみません)
ただ本誌でチラッと手嶋と青八木を見たら猛烈に二人が書きたくなっただけだったり
私にしてはそれ程腐っていない内容だと思いますが、二次創作はダメだよ~という方は、今日は回れ右でお願い致しますm(__)m
1月。降雪明けの最初の練習後、手嶋は部室に残って今後の練習メニューを見直していた。
テーブルに広げたノートに文字を散らす彼の横では、ストーブの上に置かれたやかんがシュッシュッと音をたてている。
新キャプテンの手嶋は、練習後、ジャージから制服に着替えてもすぐには帰らない。
キャプテンとして大切な役割をこなすべく、こうして残っているのだった。
キャプテンの仕事……それは手嶋が思っていた以上に大きなものだった。
もともと戦略をたてたりするのは得意な方。頭を使うのは嫌いではない。
だが、インターハイの新王者となったチームを率いるというプレッシャーは時に吐き気すら催す。
続く小野田の不調も悩みの種であった。
金城さんにも相談させてもらっている程だ。
それがどうだろう。今日の練習で小野田は、確実な復調を見せてくれた。
この喜ばしい出来事が、より手嶋を熱心に机へと向かわせていたのだった。
小野田の復調に合わせ、もっと日々の練習を強化していこう等々。
あれこれ考えながら、手に持っているシャーペンをクルリと器用に回転させる。
シャッと小さな音をたてながら手の中に戻るシャーペン。
そんな小さな音の合間に、バサリと何かの落ちる音が聞こえ、手嶋は手を止めた。
つい、考えに没頭し過ぎてしまった。
何かの落ちた音というのは青八木の持っていた教科書なのだ。
手嶋を待ちながらストーブ近くの長椅子に座り、古典の教科書を眺めていた青八木だったが。いつの間にか眠ってしまったようだ。
手に持ったものを落としても気付かずに寝ているなんて珍しい事だ。
今日の練習は峰ヶ山が主体で、スプリンターの青八木にはとてもハードなメニューだっただろう。
いつも以上に疲れて当然だ。
自分のペースで登れば良かったところ、小野田のハイケイデンスにも付き合うはめになっていた。
そしてそもそも、ここ数日、青八木は少し元気がなかった。
小野田程顕著ではないから誰も気付かないだろうが、手嶋にはよく分かる。
だから手嶋は青八木に先に帰っても良いと伝えたのだが。青八木は必ず手嶋を待っている。
それはこんな日でも変わらないし、こんな日だから余計にかもしれない。
青八木の事もあるので早めに帰るつもりでいたのに。小野田の復調を受けて頭に浮かんだ様々な事と対峙しているうちに、すっかり遅くなってしまった。
手嶋は床に落ちた教科書を拾うと、そっと長椅子の青八木の脇へと戻した。
部室はストーブのおかげで柔らかいあたたかさに包まれているが。
季節は冬。一昨日雪が降ったばかりである。
こんなところで寝ていては風邪をひきかねない。
手嶋は片膝をついて青八木の顔を覗き込んだ。
「青八木~」
目を閉じた青八木は可愛い。
あの大きくて力強い瞳が閉じられ、穏やかな印象を与えてくれるからだろう。
もっと寝顔を眺めていたいだなんて気持ちには蓋をして、手嶋は再び声をかけた。
「こんなところで寝たら風邪ひくぞ」
青八木の瞼がすっと開かれる。その瞼の奥、大きな瞳が手嶋を捉えた。
「純太……ごめん、寝てたか」
多くの人が青八木の事を無表情だと言うが、手嶋は全く逆に感じている。
彼は今、いかにも申し訳なさそうな顔をしていた。
「謝るのはオレだ。待たせすぎたな、ごめん」
「そんな事はない!」
「いやいや、おまえも今日は疲れただろ。早く帰るようにしようと思ってたんだ。けど、小野田の調子が復活してきたのが嬉しくてな、つい…」
「純太はすごいな」
手嶋をじっと見つめてきた瞳が、耳から聞こえる音以上の言葉を与えてくれる。
練習の手も抜くことなく、キャプテンの雑務をこなしている。自分には出来ない事をやっていると。青八木のまっすぐな瞳が語る言葉。
それは手嶋の心にいつも勇気をあたえてくれていた。
自分がどんな状況下にあっても、この相棒ときたら、いつも手嶋のことばかり気遣ってくれるのだ。
「ありがとな、はじめ」
立ち上がりながら、手嶋は続けた。
「待たせたお詫びに肉まん、どう?オレのおごり」
手嶋の提案に青八木は嬉しそうにコクリと頷いた。
手嶋はテーブルに広げたノートを手早く片付け、ロッカーに入れたバックにしまおうとロッカーに向かった。
その時、三年生のロッカーが目に留まる。
正確に言えば、三年生のだったロッカーと言うべきだろう。
つい先日の出来事だった。
その日は雪で、室内で筋トレやローラーに乗っていた。
そこへ金城と田所が部室を訪れたのだ。
二人は時々顔を出してくれていたが、その日は明確な用事があった。
年が明けたのを機に、自分達のロッカーの中の荷物を全て引き上げるためだった。
それまで、部は引退したと言っても、そのロッカーはまだ三年生のものとして存在していた。
それを完全に引き上げに来たのだ。
金城のロッカーはほとんど空であったが、田所は何やら私物がごっそり詰まっていたようで。帰りにはバッグが大きく膨れていた。
完全に空になったロッカー。
青八木は寂しそうだった。
小野田程ではないが、慕っていた先輩が卒業していく喪失感はあるだろう。
もちろん自分も先輩方を尊敬していたし、慕っていた。
しかし青八木の田所へのそれは自分より大きいのは確かだ。
空になったロッカーは寂しさを煽る。
青八木に元気がないのはそのせいだろう。
彼にはいつも笑顔でいて欲しいと、手嶋は願っているのだが。
職員室に部室の鍵を返却して外に出た頃には、辺りは暗くなりはじめていた。
今日は二人とも徒歩だったので、手嶋は約束通り、近くのコンビニで肉まんを2つ買った。
肉まんを頬張りながら二人が歩く道の隅には、すっかりグレーになった雪の塊が残っている。
こんな日、湯気のたつ肉まんは格別だ。
手嶋にとって、こうゆうあたたかさを青八木と共有できるこの時間はとても大切だった。
青八木がいつも隣で話を聞いてくれるから、手嶋は前に進める。
青八木にとっても、こんなささやかな時間が元気を取り戻すきっかけになって欲しいと思う。
「そういやさ、田所さんのロッカー空いただろ。あそこをさ、青八木のロッカーにするか?」
「………」
手嶋の問いかけに珍しく感情が返ってこない。
不思議に思った手嶋は思わず青八木の横顔を見た。
「……純太……だから肉まん?」
青八木の大きな瞳がを手嶋を見つめる。
青八木が考えている事を手嶋が分かるように、青八木のこの瞳に見つめられると、手嶋は隠し事などできなくなる。
「少しは元気出るかなってな」
手嶋は苦笑いしながら続けた。
「こんな肉まんぐらいじゃ何も変わんないって分かってるけどさ。おまえが元気ないと気になっちまうんだよ。ロッカーも先輩のを引き継ぐって良いだろ?」
青八木は手の中にある残りわずかになった肉まんに視線を落とした。
「純太……ありがとう。俺は大丈夫だ。心配させてすまない。田所さんのロッカーが空になって。確かに少し寂しかった。でも、オレには純太がいる」
言葉の後に手嶋へと戻された青八木の視線は、とても優しくて。ここ数日のどこか寂しげだった色はない。
純太がいれば大丈夫。そんな青八木の気持ちがすっと手嶋の胸に響いてくる。
手嶋は嬉しさと気恥ずかしさを誤魔化すように手に持っていた肉まんを頬張った。
「ロッカーも今のままがいい」
青八木が続けた。
「良いのか?どこの馬の骨とも分からない一年生が使う事になるぞ?後悔しないか?」
手嶋の問いに、すぐにこたえが返ってくる。
「オレは純太の隣のあそこが良い。一年の時から使ってる、純太と隣の」
ずっと二人で走ってきた。手嶋の隣は青八木の定位置で。青八木の隣は手嶋の定位置なのだ。
青八木の言葉に手嶋は心がじわじわと熱くなっていった。
青八木を思っての寄り道や提案だったが、結局また自分の方が青八木に元気をもらっている。
最後の一口を食べ終えた青八木が呟いた。
「田所さんなら、この肉まんなんて三口くらいだな。オレはまだまだだ」
「いやいや、けっこう熱いし。さすがに無理だろ」
「いや、オレは田所さんをいつか越えてみせる」
「肉まんはやめとけよ」
笑いながら手嶋は言った。
「肉まんも諦めないが……田所さんのように速くなって、インハイで純太を山まで引くんだ!」
青八木の力強い言葉に、手嶋も気持ちがぐっと引き締まっていくのを感じた。
「ああ、そうだな!」
二人でインターハイに出る。
一年の頃からの目標だ。
青八木はきっともっと速くなる。
自分も負けてはいられないと、不思議なくらい力が湧いてきた。
道路脇に残った雪は今晩またカチカチに凍ってしまうだろう。
でも、明日の太陽できっと溶けていく。
つまづいたっていい。支え合って一歩一歩進んでいく。それがオレ達だ。
読んでくださった方、ありがとうございました!
これは週チャンでRIDE.532と533を読んだ時に頭に浮かんできたストーリーでして。
532と533に垣間見えた設定を拝借しております。
pixivなどに投稿する程しっかり書けないと思ったので、ブログの記事に書き始めました。
読み直してからアップしよう~なんて思っていたら、週末に入ってしまいまして。
週末は子供達に振り回されて過ごしていたのであっという間に過ぎて……月曜になってしまいました
勢いで書いていたものだったので、週末を挟んで読み直すとどんどん微妙に思えてくる……正直なかった事にしようかと思いました。
ですがまあ、せっかく書いたものなので。恥は承知で予定通りブログに載っけさせてもらいました。
実はこの話の後、田所さんのロッカーは鏑木が使うことになって……と、鳴子も加えたギャグ話も考えていたのですが。
今回はここまでで力尽きた次第です
出来はさておき、妄想し、書く作業は楽しかったです
最近はあまり二次創作をしっかり(?)書いてpixivに投稿~という作業が出来ていませんので。
昨年よりは多く投稿しようと、ゆる~い目標をたてています